もし、サックス吹きのtataが鈴木 信一の 『文才がなくても書ける小説講座』を読んだら

友達との待ち合わせ。時間にはまだ余裕がある。
何げなしに立ち寄った本屋にこんなタイトルの本が目に飛び込んできた。

『文才がなくても書ける小説講座』著:鈴木 信一

今でこそ、こうやってtataのサックス講座をやっているが、
実は文章を書くのは大の苦手分野である。

中学生の時も、国語だけはどうやっても成績が上がらなかった。

tataのサックス講座を書いているからだろうか、
『文才がなくても書ける』という、あま~い口説き文句に誘われて
気が付いた時には、レジでお金を払っていた。

決して、小説を書きたいと思ったわけではない。
この拙い文章が少しでもマシになる様に、
表現豊かになる様に、と思っての購入だった。

「書くということは、情報を埋める作業である」

ほほう。
なるほど、なるほど。

と感心して読み進める中で、小説を書くということについて
小説家の坂東眞砂子が雑誌に寄せた『作家になる道』という文章を紹介していた。

ここでも紹介したいと思う。

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0と1の間には、宇宙間ワープほどの距離がある。
そんなことを思いついたのは、数年前のことだ。

0とは何もないといこと。何も動かない。何もしない。
1とは、何かをするということ。ほんと少しの動きでもいい、
ただ、それは10にも100にも繋がっていく。

0と1の間は大きいが、1と2、1と100の差はさほど、大きくはない。
1以降は、同じグループに属するのだ。
私は数学者ではないので、別に数学的な話でもない。

ただ、やる、か、やらない、かは、
まったく違う次元に生きることであると気がついた。

~中略~

才能とか運とかさまざまな条件差はあるとしても、
私と彼らとの原初的な違いは、最初の小説をひとつ書いたか否かだ。

ほんのちょっとの差だが、やる、か、やらないか。

1か0か。
差はほんの僅かではあるけれど、そこには人生を変えてしまう力が潜んでいる。

(『小説新潮』2007年12月号)
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なんてごもっともな意見だ、と関心した。
これは、サックスの上達においても全く同じことなのだ。

教則本を買いあさるだけでは、上手くならない。
練習方法を理解するだけでは、上手くならない。
レッスンを受けても練習しなければ、上手くならない。
いい楽器を買っただけでは、上手くならない。

ごくごく単純であたりまえのこと。

やらない、で、できる、なるなんて不可能であることは
誰が考えてもわかることだ。ほんとは(笑)

しかし、多くの人は
やる、のか、やらない、のかは
できる、か、できない、かで判断をする。

できない、ことを言い訳に、やらない、のだ。

でも、よくよく考えてみると、できない、ことを理由に
やらない、のは、そもそも論としておかしい。

逆に、できる、から、やる、んだろうか?
できることだけをやるって、飽きるし面白くないよ。

面白いから、やる。
楽しいから、やる。
自分の人生にとって有意義であるから、やる。
やりたいから、やる。

それでいいのだ。(byバカボン)

なぜ、できないことを気にする?
なぜ、できない、を理由にしてやりたいのにやらないのだ?

やりたくないなら、今すぐやめればいいと思う。

でも、やりたいのに、できる様になりたいのに、やらないのはなんで?
そもそも、誰ができないと決めた?

だいたいの事は、やれ、ば、できる、ようになる。
本当は、そんなもんである。

やっても、できない、は迷信。
やってもないヤツがこんなことを言う。

ある人はこんなことを言っていた。

何かを成すためには

1、始めること
2、続けること
3、やめないこと

これができれば、大抵のことはできる様になる。
逆にこれらがなくて、できることは何もない。

・・・

そりゃそうだ。

始めなきゃ、始まらないし
続けなきゃ、途中でやめちゃいます
やめちゃったら、終わりじゃないですか。

さて、そんなことを考えたら、小説を書きたくなった。
本当に小説が書けるのかを試したくなってきたのだ。

音楽家が何をやっているんだという話なんだけど
それでも、やりたいことをやるのがtataである。

もし、国語の成績がどん底だったtataが小説を書く事ができれば
やれ、ば、できる、という証明にはならないだろうか?

ということで、短編小説を書いてみた

タイトル:『 0と1のあいだで 』

駅の改札から佳織が小走りで駆け寄ってくる。
少し高めのヒールを履いていて、清楚で白のワンピースを着ている。
スレンダーで背が高い佳織は100m先にいてもよくわかる。

「待った?」
「銀河時間で1時間は待ったよ。」

いつも遅刻してくる佳織に、僕は決まり文句の様にこう言っている。
そうすると佳織も決まって

「でも、贅沢な時間だったでしょ?」

と笑ってごまかすのだ。

佳織はいつも20分遅刻してくる。
いつ、どこで待ち合わせても時間を見計らった様に20分遅れてくる。

あまりにきっちり遅れてくるもんだから、
わざと20分遅れて待ち合わせ場所に行ったこともあったが、
佳織は必ず僕が待ち合わせ場所に到着してからぴったり20分後に現れるのだ。

最初はからかわれているのかと思って

「決まって20分遅刻って、一体何のつもりだよ?」

と怒った事もあったが、佳織は少し困った顔で

「ちゃんと時間通りにいこうと思っているのよ。
でも、待ち合わせの時間を算出するのに、4次元空間のズレをベクトル計算したら、
どうしても地球時間で20分のズレが出てしまうの。」

って上目遣いで言われてから、
僕はこの20分遅れの待ち合わせを受け入れている。

このぽっかり空いた20分で本を読んだり、ボーっとしたり、人生について考えたり、
それなりに有効活用させてもらっている。

佳織は美人だ。隣を歩いているのが申し訳ないぐらいだ。
二人で歩いているとどう見ても不釣り合いなのか、
すれ違う人の3割は二度見をするか振り返って首を傾げる。

いつも失礼だなって思うが、
ショーウィンドウに映る自分を見た時に納得してしまうのだから仕方が無い。

佳織とは大学の同期だ。
卒業してもう3年経つが、たまにこうやって仕事終わりに二人で会っている。
僕は佳織の良き相談相手なのだ。

相談相手になっているのには理由があって、
僕は人間の中で唯一、彼女の秘密を知っている存在であるからに他ならない。

彼女は人間ではなく未来から来たアンドロイドなのだ。

佳織とは大学3年の夏休み、
ゼミ合宿の研究発表でグループが一緒になったのをきっかけとして話始めた。

美人でポーカーフェイス、頭脳明晰で冷たい態度を取る佳織は、
大学内でいつも一人で行動していたため、陰では「綾波レイ」と呼ばれていた。

そんな掴みどころのない彼女と課題を協力しなければならないので、
少し後ろめたい気持ちで臨んだゼミ合宿だったが、話してみると意外と普通だっ た。

とにかく論理的で計算が速くて驚いた。
頭の中に電卓でも入っているのかと当時は思っていたが、
実際に入っていたのだからさらに驚きだ。

ゼミ合宿は現地解散だった。
同じゼミには仲の良い友達がいなかったので帰路はひとりだった。

最寄り駅に着いた頃には夜中の12時を回っていて、
各停しか止まらない寂れた駅では、僕を含めて3人しか降りなかった。
改札を通ると他の2人もそれぞれ闇の中に消えていった。

下宿先のアパートへ戻ろうと自転車をこいでいたところ、
人目につかないセルフのガソリンスタンドに佳織が突っ立っている。
どうやら周りを気にしている様子だったので、
おもわず自動販売機の影に隠れてしまった。

人がいないことを確認した佳織は、おもむろにハイオクの給油ノズルを手に取り、
口に差し込みガソリンを飲み始めた。

びっくりした僕は急いで佳織のところに走っていった。

「馬鹿野郎!何やってんだよ。」

と僕は顔面蒼白で詰め寄ったが こんなときでも佳織は慌てない。
見られてはいけないところを見られた時の驚いた表情など皆無に等しく、
あくまで冷静な表情と口調で佳織はこう言った。

「ハイオクの方がおいしいのよ。」

高級ステーキを食べた後の様にハンカチで上品に口を拭きながら言うもんだから
僕は腰を抜かして立てなかった。

この時から僕は佳織がアンドロイドであることを知る、唯一の人間になったのだ。

佳織の話はこうだった。
宇宙は未来と繋がっていて、過去に来る時は宇宙船に乗ってやってくる。
佳織は2156年からやってきたのだが、
2156年 の人口はアンドロイドが98%で人間は全体の2%。

人間は天然記念物に指定され、
種の保存のために人間研究がされているのだという。

アンドロイドの計算で は
人間が滅びてから7日後にアンドロイドも滅亡するとのことで、
人間研究はアンドロイドにとっても死活問題なのだ。

佳織が人間として学習したデータは未来へ自動転送されるため、
佳織は未来に帰らずに一生涯、この時代で歳を取って死ぬ様に
プログラムされているらしい。

通常は『オーランチオキトリウム』という藻を体内に培養し、
炭水化物と水で科学反応させることで
エネルギーである油を精製することが出来るらしい が、
ゼミ合宿で疲れていたために、どうしても我慢できずにハイオクを
飲んでしまったところを僕に見つかったという訳だ。

また、時空の関係上、現在の時間が 進むスピードは、
2156年の時間(銀河時間)が進むスピードの3倍の速さで進んでいるとも言っていた。

「この時代は忙しいわ」とぼやいていたのが、あま りに人間らしくて少し笑った。

「そんな訳で未来のためにあなたも協力してよね」
と言われてから、佳織との不思議な関係が続いている。

今日は佳織に呼び出された。
いつも駅で待ち合わせて、歩いて3分ほど離れた安くて美味しい居酒屋に入る。

のれんを潜るといつも店のオヤジが

「あれー?まだ、別れてないの?」

とからかってくるので、苦笑いをして

「オヤジ、とりあえずビール2つ!」

と言って、カウンターに座る。

就職して3年も経つと「とりあえずのビール」が板についてくるものだ。

佳織は卒業後、大手の広告代理店に就職した。
大学を首席で卒業してトップ成績で入社した いわゆるエリートだが、
佳織が社会に出てからの口癖はこうだ。

「割り切れないわ。ショートしちゃいそう」

とりあえずのビールを口に流し込み、佳織はいつもの口癖をしゃべり出す。

「今度は何があったの?」
「例えばね。『0』と自然数『1』の間には、どれくらいの可能性があると思う?」
「『0』と『1』?」
「そう。『0』と『1』。」
「わからないな。『0』の次は『1』でしょ?」

僕がそう言うと、佳織は少しため息をついて、もう一口ビールを勢いよく飲む。

「私の提案した企画…ものすごく画期的だったのよ。
リサーチもマーケティングも徹底してて、
部長もみんなもこれで広告の歴史が変わるなんて騒いでいたわ。」

注文していた軟骨の唐揚げとダシ巻き卵がきたので話はそこで遮られた。
僕は小皿と割り箸を佳織に渡しながら、「それで?」と話の続きを聞いた。

「上層部からストップがかかったの。前例がないからだって」

佳織がそう呟いてから、少し沈黙が流れた。

こんなにも落ち込んでいる佳織を見たのは、はじめてのことだった。
いつも冷静で何が起きても動じない佳織が少し涙を浮かべている。
そして、落ち着きを取り戻して佳織が話はじめる。

「アンドロイドはね、すべてを計算するの。」
「すべてって何?」
「あらゆる可能性をよ。」
「可能性ねぇ」

アンドロイドは計算が得意ですべての行動を確率で処理し、
一番有益な選択をしていると思っていたし、
これまでの佳織の完璧具合からみてもそれが推測できた。

しかし、次の言葉が意外だった。

「『0』から自然数『1』にする時には、ものすごいエネルギーが必要なの。
『1』から『2』の比じゃないわ。
『0』から自然数『1』の間には、可 能性という小数点が何百億桁って存在するの。
人間をずっと観察してきたけど、どうしてそんなにすぐ小数点を切り捨てたり、
切り上げたりできるのか私にはわ からない。」

こうやって組織社会の不条理に悩む佳織は、隣にいる人間より人間らしく見えた。
佳織との付き合いはあれから5年になるが、
時より見せる笑顔や悲しい表情で完璧で美しい顔が
少し崩れるのを見るとアンドロイドである事をついつい忘れてしまうのだ。

「私が円周率に想いを馳せる時なんて、どこまで計算しても終わりがないのよ。
あなたに永遠に割り切れないこの私の気持ちがわかる?」

と言って、目に溜まった涙が頬を伝わってビールの中に落ちた。

「人間もさ。みんな割り切れない気持ちを他人に隠して生きてるんだよ。」
「ふーん。私にはわからないわ。」

僕が5年間想い続けているこの割り切れない気持ちも、
佳織はいつか学習してくれるのだろうか?

窓の外では三日月が妖艶な光を照らしている。
ゴールデンウィークが過ぎると少し曇りが続くらしい。
5月の風は少しだけ冷たく感じた。

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