前回は、「緊張」という名の魔物の正体についてお伝えしました。
前回の記事→http://xn--pckln2b.biz/ot9h
人間は、通常ではない状態や環境に置かれたときに
防衛反応として、ノルアドレナリンが過剰に分泌して
無意識に体中に血が巡り、脳が一気に覚醒し、心拍数や血圧が上昇、
より多くの情報を取り入れるため瞳孔は拡大、筋肉など一時的に機能が向上する
ということでしたね。
この時点では単なる危機に遭遇した時の、ある意味正常な身体の反応なので、
この身体の変化が「良し」なのか、「悪し」なのかという色は、
少なくともこの時点ではついていません。
前回のメルマガの冒頭でお伝えしたように
緊張することで、良い結果を導ける人と残念な結果になってしまう人は何が違うのか、
これらの身体の反応がどのように作用した結果なのか、
ということを、今回は考察していきたいと思います。
まさに、光か、闇か…。ですね(笑)
緊張を味方にして、通常よりも良い結果を生み出す人は結果的にこの一時的な身体や脳の機能向上を上手く利用できた人である
というのは、容易に結論づけることができます。まさにスポーツの中で一部の人が体感する「ゾーン」という現象はこれまでのことで説明ができます。
「ゾーン」は、極限の集中状態のことで
「周りの人の動きがゆっくり動いてみえる」
「ボールが止まってみえる」
こんな状態のことを言います。
スポーツの場面でなくても死ぬ間際や交通事故にあった時に周りの景色がゆっくり見える話は聞いたことがあると思います。
一流の演奏家やスポーツマンは、意識的にこのゾーン状態に入れると言われていますが実際のところどれくらいのレベルなのかは他人では知り得ることができません。
ただ、重要なキーワードは「極限の集中状態」ということです。
ゾーンでなくても、テレビゲームに集中しすぎてゲームがクリアするまで足が痺れていることに気がつかなかったというような経験は誰にもあると思います。
没頭している状態といってもいいでしょう。
こういう状態に持っていくことができれば、緊張状態に訪れた一時的な身体や脳の機能向上を上手く利用できる訳です。
脳のワーキングメモリーが通常よりも増え、脳内の信号伝達速度があがります。
普段では見えないものが見え、
いつもは聞こえない音が聞こえ、
何気なく肌に触れる感触が敏感になり、
いつもはわからない繊細な味を体感し、
かすかに漂う匂いを感じる。
少し先の未来を予測でき、
その未来をなぞるかのように
身体はイメージ通りに動きをする。
我に返ったときには、拍手喝采を浴びている。
緊張という魔物を味方にしたときは、こういった状態です。
逆に、緊張を味方にできずに残念な結果になってしまう人はこの一時的な身体や脳の機能向上を上手く使えないために普段では、できていることすらコントロールできない状態に追い込まれます。
「緊張」の恩恵に与るために、必須のキーワードは「極限の集中状態」でした。
通常の集中力というレベルではなく、没頭というレベルの「集中状態」が必要です。
もし、この「集中状態」でない状態で、緊張という魔力を与えられると我々は戸惑いを覚えてしまうのです。
・普段では見えないものが見えてしまって戸惑う。
普段は楽譜の音符を一生懸命に追っていることに一杯一杯なのに
お客さんの表情が鮮明に見えてしまう。
・いつもは聞こえない音が聞こえてしまって戸惑ってしまう。
ドクドクなる心臓の音。お客さんの笑い声。本番が迫る時計の音。
いつもは気にしない空調の音
・何気なく肌に触れる感触が敏感になり戸惑う
気持ちが悪い手汗の感触。
いつもは意識もしないサックスの指に触れるキーの感触
・いつもはわからない繊細な味を体感し、戸惑う。
口の中が乾きを感じ、水を飲む。
いつもは気にも留めていない繊細な水の味の違いや舌や喉を通っていく感触
・かすかに漂う匂いを感じ、戸惑う。
ホールの木の匂いやライブハウスの独特の匂い。
普段は、感じない感覚に戸惑いを覚え、普段とが違うことに
不安に感じ、集中とは懸け離れた方向へ意識が向いてしまい
緊張という魔物のダークサイドに落ちていくのです。
その結果、通常の状態でなんなく出来ることが、
誤作動をおこしシステムエラーになります。
まず、改めて確認しておきたいことは
この身体の変化は、自身ではコントロールできない
無意識のレベルで行われる
ということです。
防衛本能というか、反射というか
そういった、自分ではコントロールできないことをなんとかしようと
解決策を見つけようとしていることにこの問題の難しさがあります。