意味のある練習とは?

「テクニックをつける極意」の続きの話です。

前回の内容を乱暴にまとめるとテクニックをつける練習をする時は感情を捨てて「出来ているか」「出来ていないか」を厳しく判断するという事をお伝えしました。配信後に、何通か感想を頂きましてその内容は、だいたいどれも同じで「本当に出来ているのか、出来ていないのか、の判断が自分ではできない(自信を持てない)」という事でした。

今回はこの問題を解消していきたいのですが、結論を言ってしまえば「目標設定が上手くできていない」という事になります。以前から、僕は何のための練習か、を考える事が重要だ。と、言っているのですが、これを言うと

  • ・サックスが上手くなるためです
    ・楽しむためです
    ・音を良くするためです
    ・○○さんみたいなプレイヤーになるためです

などと抽象度の高い目標設定をする方が多くいます。こういった長いスパンでみた時の目標設定も、もちろん必要だとは思いますがこの文脈で僕が伝えたい事とは、意味がかけ離れています。

日々の練習の中でこれらの目標が出来ているか、出来ていないか、という判断をするのは無理です。「何のため」や「目標設定」という言葉が誤解を生んでしまっているとしたら「問題設定」という言葉を使ってもよいと思います。何のための練習か、を考える事が重要だ、というのは、その練習をするにあたって自分にとって適切な「問題設定」ができているか、という事です。

適切な問題設定とは

  • ・計測が可能であること(つまり、出来ているか、出来ていないかの判断が可能か)
    ・自分自身で判断可能なレベルを設定しているか

このふたつを満たしている事が必須です。

このふたつを満たすことによって、常に今の自分に適切な「問題設定」を作り出すことができます。このふたつの条件について、詳しく説明していきます。

計測が可能であること

例えば、ロングトーンをする時に、ただ闇雲に「音を良くするんだー」と念じながら音を伸ばしても何の効果もありません。

  • ・発音(タンギング)のタイミングに気をつけよう
    ・腹式呼吸を意識してロングトーンしよう

などのかなり具体的な問題を設定する事が大切です。これらの問題設定は、計測が可能です。例えば、「発音(タンギング)のタイミングに気をつける」であれば、メトロノームを使って、発音に気をつけることで、速いのか、遅れているか、など出来ているのか、出来ていないのかの判断ができます。

腹式呼吸を意識してロングトーンする、であれば腹式呼吸を意識しているか、していないか、を判断すれば良いと思います。個別、具体的な「問題設定」を行うことによってなんとなく練習するのではなく、かなり的を絞った効率の良い練習に生まれ変わります。練習の意識改革と言っても良いと思います。

自分自身で判断できるレベルの問題を設定する

僕達が音楽を聴く時に、あたかもすべての音を聴いている、と錯覚していますが実は、聴こえていない音もたくさんあります。聴こえていない、というよりは、聴こえているけど認知できていない、と言ったほうが、正確かもしれません。

同じ言葉を聴いても、その言葉を受け取る人の経験や年齢、知識の幅によって、受け取れる意味や質が変わってきます。それと同じ様に、サックスの経験年数やレベルによって聴こえてくる音(認知できる音)の量が変わってきます。耳が肥える、とか、耳が良い、という様な表現をよく聞くことからも人によって認知できる音に差があるという事がわかると思います。

今回の話は、ピッチのズレがわかるとか、細かい演奏の違いがわかるとか、そんな難しい話ではありません。自分が設定した「問題設定」が出来ているか、出来ていないか、を自分がジャッジできるかどうかです。

例えば、ロングトーンの練習をした時に「発音(タンギング)のタイミングに気をつけよう」という問題設定を掲げたとします。音を出した時に、自分の思ったタイミングでタンギングが出来てるか、という事を自分自身で判断できるかどうかです。もし、やってみて判断できない、もしくは判断できるかどうかわからないという場合はそれは自分にとってはレベルが高過ぎる「問題設定」だったという事です。この場合は再設定が必要になります。

重要なポイントは、出来るか、出来ないかではなく、出来ているか、出来ていないか、を「判断」できるということです。さらに重要なことは、自分で下した「判断」に自信を持つ事です。結果的にその判断が間違っていても問題ありません。「問題設定」を立てて「判断する」というサイクルを継続していれば、確実にレベルが上がってきますのでレベルが上がれば、判断できる幅も増えてきます。

もし、間違った判断をしても、レベルが上がれば、後々わかることですから、その瞬間、その瞬間の出来ているか、出来ていないかのは判断は、今の自分が決めってしまって良い事です。

どうでしょう?練習における「問題設定」の意味をわかって頂けたでしょうか?ご返信頂いた「本当に出来ているのか、出来ていないのか、の判断が自分ではできない(自信を持てない)」というのは、本当に判断できないのではなく、恐らく、自分にとって適切な「問題設定」を上手く立てられなかった。という事だと思います。

「問題設定」を立てずに練習するとどうなるか?それは、今吹いたフレーズは、正解なのか?間違っているのか?というかなり漠然とした形で答えを求めてしまいます。あるのか、ないのかわからない「正解」というものを手探りの中、求めてしまいます。

「問題設定」があって、はじめて「判断」ができるわけです。逆に言うと「問題設定」をして、はじめて聴こえてくる(認知できる)音があるということです。ぜひ、自分に適した「問題設定」を立ててから練習してください。練習の意識が変わりますよ