上手さの3条件

「あいつのサックス、超うめぇ〜!!!」あなたもサックスをやっていれば、そんな憧れのプレイヤーが少なくとも一人はいると思います。自分の好きなプレイヤーであればこーゆー部分がかっこいいんだ、とかこの枯れた音が心に染みるんだ、とか好きな部分を語ることができますね。

しかし、それ以外のプレイヤーが下手くそなのかというとそれは違います。好きな演奏と上手い演奏は違っていて上手い演奏が必ずしも好きな演奏とは限りませんが、世の中の多くの人が上手い演奏を好んでいるという点は共通している事でしょう。僕達は直感的に、この演奏は上手いとか下手だとかそこそこだとか判断するわけですが、なぜ、このプレイヤーの演奏は上手いと感じるのか、と不思議に思ったことはありませんか?

僕達は、演奏を聴いて、上手いとか、下手だとかなんとなくわかると思いますが、では、一般的に「上手い演奏」というのはどんな演奏なのでしょうか?もっと、ひらたく言うとどんな条件を満たせば、人は、好みに関わらず「上手い」と認識してしまうのか、ということです。

逆に考えるとこの条件さえ満たせば、「上手く聴こえる」という事なので、これらの条件を目標に練習すれば良いという事になります。上手さとは何なのか、を分析することによって見えてくるものがあると思います。

さて、上手さとは何なのか、上手さにもいろいろあって細かく分析するとたくさん出てくると思いますが、乱暴に大きく分けると3つ条件があると思います。あなたも上手さの条件を3つ上げるとしたらどんな条件を上げますか?一度、自分で考えてみてください。ただ、記事を読むよりも自分の頭を一度働かせた方がこの記事から得られるものが変わります。

考えましたか?それでは、僕の答えをお伝えします。あっ、最初に言っておきますが、あなたが考えた答えが間違いではないですからね。この手の質問は正解に意味があるのではなく、自分の頭で考える事に意味があります(笑)さて、僕が考える上手さの3つの条件とは「音」「テクニック」「表現」の三つです。それぞれ、詳しく説明していきましょう。

「音」

本番で演奏をした時に「いい音だったねー」と感想をもらう事もしばしばあると思いますし、自分の好きなプレイヤーへの最大の憧れは「音」だと思います。ただ、「音」の善し悪しというのは、好みによっても変わってきます。ここでは好みによる音色の違いを除外し、多くの人が良い「音」と認めるのは何なのかという事を考えていきたいのですが、それは、音をコントロールできているという事だと思います。

  • ・音が揺れている
    ・発音の音が汚い
    ・音量のコントロールができていない
    ・ビブラートが機械的だ
    ・音に嫌なノイズが混じっている
    ・音が響いていない
    ・音が細い

などなど、音色を除外するとしても音をコントロールできていないと音が不安定に聴こえて、聴く人にも悪い印象になるでしょう。「音」を考える時に、この様なコントロールする力と「音色」は分けて考えるとすっきりすると思います「音色」は好みです。アンブシュアやマウスピースによっても音色は変わります。一方、コントロールする力は、すべてのサックス奏者に共通する必要な能力ですね。

「テクニック」

これは、単純に楽譜とおりに吹けているか、という事に尽きると思います。速いパッセージや難しいリズムがあれば、それらを正確に演奏できているか、という事です。速ければ速いほど、難易度も上がってきますが速ければ何でも良いという訳でもありません。正確に吹けているというのが、テクニックの本質です。速くてデタラメなのは、上手いという概念からは外れます。速さには、憧れると思いますが、「正確」にという部分を忘れたら、いわゆる痛い演奏になるので、気をつけてください。

「表現」

音が良く、正確に演奏できれば、それなりに聴こえると思いますがこの3つ目が大事かもしれません。キャスターがニュース原稿を読むのと、役者がセリフを話すのとは同じ言葉を使って伝える行為でも、全く違う行為であるのはわかると思います。「音」と「テクニック」だけの条件が満たされている演奏は綺麗で発音のよい声で正確にニュース原稿を読んでいるのと同じですね。

音楽という性質を考えると、目指すべきものが少し違うのがわかると思います。役者が演技をし、生々しい血のかよった言葉でセリフに命を吹き込むのと同じで
我々はひとつのフレーズに命を吹き込み、生きた表現として演奏すべきです。各音のニュアンスやフレーズのグルーピング、曲全体のストーリーをどの様に物語っていくのか、そんな能力も必要です。

僕があげた「音」「テクニック」「表現」の三つの条件がそれぞれどの様な事を指しているのか、なんとなくわかったと思います。重要なことは、それぞれの条件がわかれば、これらの3つの条件が自分の実力を図る指標になります。上手くなりたいと、むやみやたらに練習するのは効率が悪いですね。ある程度、上手さの指標があれば、自分のどの能力が足りていなくてどの能力を伸ばすべきなのか、という事がわかりますね。

「音」のコントロールに自信がないのであれば、ロングトーンの練習を増やす必要があるかもしれませんし「テクニック」が足りていないと感じればスケールやエチュードに時間をさく必要があるかもしれません。「表現」が足りていないと感じれば、素晴らしい見本の演奏をたくさん聴く事が助けになるかもしれません。この指標は、今の自分の実力を自己判断できるという点で画期的な考え方だと思います。

また、曲を完成させる上でも、この3つの指標が役に立ちます。曲練習でこの指標を使う場合は、現時点での総合的な実力は関係ありません。練習している曲に対して、完成していない項目は「音」なのか、「テクニック」なのか、「表現」なのか、という指標に照らし合わせて、考えるのも良いと思います。「上手さ」の指標を使いこなすだけで練習目的に迷いがなくなり、効率良く練習できると思います。あなたも普段の練習にこの3つの指標を使ってみてください。練習の考え方が変わりますよ。