客観的な視点で気づく事

最近のテクノロジーの進歩がすごいと感じたのは友達と数人で食事をしていた時でした。その日は、久しぶりに会った友達とお酒を飲みながら近況などを話していたのですが、その中の一人が事あるごとに料理や仲間をスマートフォンで撮影していました。最初は、写真を撮っているのかと思ったのですが
どうやらそうではありませんでした。ここ数年でスマートフォンが主流になってきて僕達くらいの世代は、ほぼみんながスマートフォンを使っています。

ご多分に漏れず僕も使っている訳ですが最近のスマートフォンには、簡単に動画が撮れる機能があります。日常で動画を撮ることなんてあまりないと思われますが写真を撮る感覚で気軽に撮影し、それらを繋ぎ合わせてムービーを作ることもできます。動画を撮った数分後にはかっこいいショートムービを簡単に作れるので作ったその場でみんなでムービーを見て、楽しめます。

スマートフォンさえあれば、あなたも映画監督になれる時代ですよ。その彼もある程度の動画を撮ったところでショートムービを作り、出来上がった作品を僕達に見せてくれました。普段は撮られるという事に慣れていない分自分の姿がスクリーンの中にいるのは不思議な感覚です。ほんの15分前の雑談の内容がスクリーンに映る事によって第三者の目線でみることができます。スクリーンの中に登場した自分を見て僕は重大な事に気が付きました。

それは、たった15分前に自分が話した事を実は正確にわかっていないという事でした。「正確に」というところがポイントなのです。話した内容は覚えているのにその内容をどんな言葉で、どんな風に、どんな表情で話していたのかは案外、わからないものです。

特に何か変な事を言っていた訳ではないのですが周りからはこんな風に見えているんだ、という客観的な目線はわかりませんでした。わかっているつもりで、実はまったく見えていない。主観的に見ることと客観的に見ることの違いをテクノロジーの進化によって、思い知らされた体験でした。

普段の友達との会話でさえ、自分の客観的な視点を把握していないのですから、自分の行動のほとんどはある意味、盲目的な状態にあると言っても良いでしょう。サックスの練習においても同じ事が言えます。

これは自分が練習をしている時もそうですし、レッスンをしていて生徒さんの状況を見ていても同じだと感じるのですが、自分の音が周りからどう聴こえているのか、というのは、なかなかわからないものだと思います。ただでさえ、サックスを吹いている時というのは、音やリズムや音楽の事を考えなければならないので、自分の音を聴いている余裕は自分が思っているよりありません。

もちろん、耳があるので聴こえてきますが聴こえてくるのと、注意深く聴いているのとは大きく違います。練習というのは、「演奏する→確認する→修正する」
という事を繰り返すことですが、最初に自分が行った演奏を客観的に分析するもう一人の自分がいる必要があります。

本来は、演奏しながら自分の演奏をチェックできれば良いのですが動画を見ないと客観的な自分を確認できないのと同じ様になかなかできることではありません。そこで、お勧めなのは録音をして客観的に聴くという事です。

最近では、わざわざレコーダーを買わなくてもスマートフォンがあれば、かなり良い音質で録音する事ができます。以前であれば、性能が良いレコーダーを購入して、わざわざ録音して聴いてと、一苦労でしたが今ではスマートフォンを利用することによりさっと録音して、さっと聴いて、さっとチェックする、という手軽なスタイルで自分の演奏をチェックする事ができます。

テクノロジーの進歩は、すごいですね。文明の力は使ってなんぼです(笑)さて、自分の演奏を判断する時には、ひとつ注意点があります。

録音するときの注意点

僕がこうやって自分の練習を客観的に聞くことの重要性を説く前に既に自分の音を録音してみたという素晴らしい読者からお便りが届いたので紹介をしたいと思います。

  • はじめまして、○○と申します。先日からtataさんの無料レッスンを受講させていただいてます。毎回貴重なお話ありがとうございます。私はアルトサックスを始めて10ヶ月になります。月1回レッスンを受けています。先日、レコーダーを買ったので、自分の音を録音して聞いてみた所、オルガンみたいな音だったのでがっかりしました。自分では、やっとサックスらしい音になって来たかな~なんて思っていたので、かなりショックでした。
  • 〜略〜

この様に自分の音を録音して「こんな音だと思わなかった(がーん!!)」とショックを受けた方も多いと思います。僕も自分の練習を録音して凹んだことなんて、何度もあるのですが「自分の音にショックを受けた」というところに落とし穴があります。その落とし穴とは、音色の判断です。

僕達が良い音だとイメージしている音はCDであったり、LIVEやコンサートで聴いた事のあるサックスの音だと思います。サックスの音は、演奏している環境によって響き方が異なります。例えば、ホールで演奏した時と野外で演奏している時は全く違いますね。また、LIVEなどでマイクを通してスピーカーから出ている音は、ある意味、加工されています。

例えば、CDを制作する時にホールでレコーディングをする場合とスタジオでレコーディングする場合があります。ホールで録音をする時は、ホールが持つ残響の響きも計算にいれてマイクの位置(楽器とマイクの距離)やマイクの本数を考えたりします。一方、スタジオで録音する場合は、サックスの音を直にとって、EQやリバーブ等のエフェクターで加工して後、ミキシングするという過程を辿ります。

つまり、CDやLiveで聴いている音というのは、録音するために用意された最適な環境とかなり高度な技術が結集されて作られている音と言えます。ですので、レコーダーやスマートフォンなどの簡易的な録音をCDと同じ音色と比較して自分の音を判断するのは、きわめて危険です。

最近のレコーダーやスマートフォンの録音機能もかなり良い音質で録音できる様になって来ているのですがそれでも自分の「音色」を判断するには、録音環境があまりにも悪過ぎるのです。

録音する時の注意点は、「俺の音ってこんな音なの?」とショックを受けないことです(笑)では、録音で何を判断するのか?それは、音色以外の部分です。

  • ・リズムは正確に吹けているのか?
    ・正確にメトロノームに合っているのか?
    ・音は揺れていないか?
    ・出だしのタイミングはあっているのか?
    ・タンギングのニュアンスは適切なのか?
    ・音量のバランスは適切なのか?
    ・ビブラートはきれいに入っているか?
  • など

また、こういった判断というのは、むしろ響きがない生音で確認をした方が判断がしやすいと思います。歯に衣着せない言い方をすれば、響きという誤摩化しがきかない状態の方が露骨にできていないところが分かるという事です。ただ、何度も言いますが音色に関してはまったく気にしないで良いのです。

テクノロジーの進歩は、賢く利用して上達に結びつけていきましょう。