本当の「ド」とは何か?

アルトサックスの楽譜には、『E♭』テナーサックスの楽譜には、『B♭』と書かれていて、アルトサックスとテナーサックスでは楽譜が違います。楽器屋さんで楽譜を探している時に注意しないと、アルトサックスなのに、テナーサックス用の楽譜を買っちゃって失敗した人もいるかもしれません。なぜ、アルトサックスとテナーサックスは楽譜が違うのか、今日はそんなお話をしたいと思います。もし、あなたが『ド』と思っている音が本当の『ド』ではなかったらどう思いますか?(笑)

  • ・詐欺です。
  • ・嘘はいけません。
  • ・えっ?聞いてないけど?
  • ・いきなり、そんな事を言われても意味がわからない。

などなど、いろいろなご意見があると思います。でも、これが真実なのです。だから、アルトサックスとテナーサックスの楽譜が違うのです。まず、この事を理解するためには、本当の『ド」とは何かをハッキリさせなければなりません。本当の…というのはいささか語弊がありますが、一般的に多くの人が『ド』だと理解している音は、恐らくピアノで『ド』の音を弾いた時の音だと思います。ここでは、このピアノの『ド』の音を本当の『ド』という事で定義したいと思います。

そうすると、アルトサックスの『ド』の音も、テナーサックスの『ド』の音も実は、本当の『ド』の音が鳴っている訳ではないのです。この様な楽器を、移調楽器と呼びます。サックス以外にも、クラリネットやトランペットやホルンなども移調楽器です。じゃぁ、本当の『ド』の音ではないのであれば何の音が鳴っているんだ?というとアルトサックスの『ド』の音は、『E♭=ミ♭』、テナーサックスの『ド』の音は、『B♭=シ♭』となります。

ちなみに「E♭」や「B♭」は、ドレミの英語表記となります。つまり、アルトサックスの楽譜を見て、『ド』と書いてある音符を『ド』だと思って、『ド』の運指をして、『ド』の音を出していると思ったら実際は、ピアノでいうところの『ミ♭』の音が出ている。という事です。テナーサックスであれば、『シ♭』の音が出ているという事ですね。

なんでそんなことするの?

なぜ、こんなややこしい事をしているのか、と疑問に思いますよね?実は、これは演奏者の利便性のためです。「ややこしいのに、何が利便性だ!」と思うかもしれませんが、逆にサックスがピアノと同じ楽譜だったら…と仮定するとその利便性に納得します。サックスって、運指がとても覚えやすいですよね?それは、ソプラノリコーダーと同じ運指で、『ド』の運指から順番に指を上げていけば、音階を吹くことができます。もし、ピアノの『ド』と同じ音をサックスで出そうとすると運指の位置が変わります。アルトであれば、『ラ』の運指、テナーであれば『レ』の運指がピアノの『ド』に該当する音になります。

この様に考えると運指の認識が複雑になるのがわかります。アルトサックスとテナーサックスを持替えて演奏する場合は、アルトサックス用の運指とテナーサックス用の運指を覚えなければなりません。また、アルトサックスやテナーサックスの音域はピアノの音域でいうと楽譜のト音記号とヘ音記号を行き来する様な中途半端な音域を担当しているため、ト音記号表記以外にもヘ音記号やハ音記号などの読み方を学ぶ必要も出てきます。

こういった理由があり、それならわかりやすい様に楽譜を替えればいいや、となったのだと思います。これによってサックスは、ソプラノサックスからバリトンサックスに至るまで同じ運指で認識でき、ト音記号の楽譜を読む能力があれば楽譜を読めるという事になります。楽譜さえ替えれば、アルトでもテナーでも同じ運指で認識でき、持ち替えて吹く事ができます。各サックスに対応している楽譜さえあれば、アルトとテナーが違う楽譜が使っていても実質的に困る事はありません。

ただ、他の楽器とセッションをする場合は、サックスが移調楽器であるという事をしっかりおく必要はあると思います。サックスでの音名とピアノ(実音)だったら何の音になるかをしっかりと把握しておくと、良いと思います。また、ピアノの楽譜をサックスで演奏したい。アルトサックスの楽譜をテナーサックスで演奏したい。などの要望がある場合は、楽譜を書き換える必要があります。その方法は、移調と言います。丁度、カラオケのキーを上げたり、下げたりする要領ですべての音符を3つ下げたり、2つ上げたりと音符を移動させるという作業をします。

その作業の方法については、次回、お伝えします。