伝えるということ

前回は、たった一人のために演奏する意味を演奏する心構えという視点からお伝えしました。

今日は、たった一人のために演奏する事が本番の演奏でもプラスに働くことをお伝えします。たった一人のために演奏することは本番の演奏で、二つの大きな効果をもたらします。それは

  • ・音が遠くまで届く
    ・緊張対策

この二つの効果です。それぞれ、個別に説明していきましょう。

音が遠くまで届く

一人に向けて演奏するというのはそれは、大切な人にあなたが伝えたいメッセージ(想い)があるからですね。この想いは、音に乗せて伝える訳ですがサックスを吹けば、絶対に届く訳ではありません。演奏者が、意識を持って届かせる必要があります。例えば、川の向こう岸にいる友達の田中さんを見かけた時に
あなたは声をかけるとします。「おーい!田中さーーーーん!!!」この時って、無意識に田中さんに届く声の音量で、さらに田中さんの方向に向けて声を届かせようとしますよね?届かせようとする意識があるからこそそのシチュエーションに合わせた声の出し方をします。

  • ・相手の場所
    ・その場の状況
    ・相手の方向
    ・相手までの距離

これらの事を瞬時に判断し、届かせるために必要な声の出し方をします。ただ、普段の生活であれば、無意識的にこの様な音量設定ができるのですが本番では、なかなかできません。無意識でできないのであれば、意識的にできる様にするしかありません。吹くことに一生懸命になって、伝えることを忘れてしまったら大切な人の心まで音は届きません。ただ吹くだけでなく、あなたの大切な人の心まで音楽を届けるまでが演奏家の仕事です。では、届けるためにはどうするのか、それは、まずどこに届けるのかをしっかりと把握しなければなりません。

そこで、あなたの大切な人を演奏する会場の一番、後ろの席に座っているとイメージしましょう。一番、後ろの席に座っているのをイメージするというのが、ポイントです。大切な人を会場の一番、後ろの席に座らせているのはどこに向けて音を届かせるのかという目標地点を決めることになります。さらに、会場の一番後ろまで音が届くという事はすべての席に音がしっかり届いているという事でもあります。届けるべき相手との距離がかなりあるからといって、必ずしも大きな音で吹くとは限りません。

例えば、舞台役者を想像してください。舞台役者は、その舞台の上では、役者Aから役者Bヘ話す内容を会場のお客さんまで届かせる必要がありますね。大きな声で演技をしているのではなく遠くに通る声で演技をしているのがわかりますね。舞台役者もおそらく会場の一番、後ろのお客さんまで声を届かせるイメージを持って、台詞を話していると思います。

目標地点を作ることで例え小さな音で吹いても音を届かせることができます。音を届かせるゴール地点をしっかりと明確に持っておくというのは、奏法上、とても重要な事です。このイメージを持つ事によって、ブレスはいつもより深くなり、息も分散されずにまとまった状態で吐くことが可能になります。大切な事は、メッセージ(想い)を届けることです。「聴こえる」と「届く」のでは、雲泥の差があります。

そのために、しっかりとどこまで音を届かせるのかを把握しましょう。大切な人の場所や距離、方向、会場の状態(響き方)などを踏まえて、しっかりと目標地点を決めて、音を届かせてください。たった一人のために演奏する意識を持つ事で奏法上の視点からもメリットがあります。

緊張対策

通常、本番というのは大勢の人が自分の演奏を見ています。もし、100人のお客さんがいたら、100人の視線が自分に向いている事になりますね。通常の生活の中で100人の視線を集める事なんてまずありませんので、かなり緊張してしまうのが普通の感覚です。なんせ視聴率100%ですからね(笑)

本当はみんな味方なのにいきなり100人からの視線を浴びると、どうしたものかみんな敵に見えてしまいます。あげくの果てには、自分の演奏の粗を探しているのではないかと思ってしまいますね。これは、前回の話でもお伝えしましたが
会場にいる100人みんなに向けて演奏しようとするとどうしてもみんなによく見られたいと思ってしまいます。

もし、あなたが1人に向けて演奏しているのであればみんなにどう思われようと関係ありません。まっすぐ大切な人だけ見ていればいいのです。そして、あなたの大切な人はもれなく味方です。周りに何人いても関係ありません。あなたは味方である大切な人だけに向けて演奏すればいいのです。

そう思うだけで、緊張がとけて本番の舞台で大切な事を見失う事はありません。このように1人に向けて演奏する事であなたの演奏はいつもよりも輝き、素晴らしい音楽になる事でしょう。

ぜひ、本番前はこの事を思い出してください。