01基礎練習と曲練習の狭間にある大きな勘違い

tataのサックス講座の感想を頂く中で

  • 「基礎ができていないから、曲では上手くいかない」

という旨の内容をたびたび頂きます。

もちろん、基礎ができていないと上手く曲を吹くことができないのは当然ですし、基礎練習の重要性は声を大にして訴えたい。しかし、この「基礎ができていないから」という発言に多くの人が大きな勘違いをしていることに最近、気が付きました。

前回の記事もそうですが僕は、たびたび曲を演奏する上での「表現方法」について言及しています。ただ、その内容で

  • 「私は基礎ができていないから、この手の話は時期尚早である」

と考えている方が、意外と多い。というか、思い返してみれば自分がそうでした。これらの発想がどこからくるのかと考えたところ、曲での表現方法…例えば、この曲をこういう音色で吹きたいと思ったとします。その音色をロングトーンなどの基礎練習で身につけその成果を曲にそのまま使う。多くの人はこんな風に考えている様に感じます。実は、この考え方が大きな勘違いなのです。

02基礎練習は何のためにするのか?

僕は、様々なテクニックをコントロールするためだと考えています。

ロングトーンであれば、

  • ・腹式呼吸
    ・アンブシュアと息のバランス
    ・揺れずにまっすぐ正しいピッチで吹くこと
    ・発音のタイミング
    ・音量のバランス
    ・身体の使い方
    etc

これらの細かい項目を意識し、コントロールすること。それは、音楽的な作業ではなく、どちらかというと機械のような正確さを追求する訓練です。もし、基礎練習で行っているロングトーンやタンギングをそっくりそのまま曲で使うと、すべてが均一で機械的な音楽になります。

  • 「ロングトーンをすれば、音が良くなる。」

それは、もちろん正解なのですが基礎練習で練習したことをそっくりそのまま曲で使ってもそれが音楽的になるという訳ではないのです。これが基礎練習と曲練習の狭間にある大きな勘違いです。

例を出して説明しましょう。

例えば、曲の中で12拍をかけて
pからffへクレッシェンドするロングトーンの場面があったとします。

ロングトーン

曲であれば、前後のフレーズや自分の役割、音楽の場面によってどんな風なクレッシェンドにするかは異なると思います。もしかすると、最初の4拍はじわじわ大きくなり後半で一気に大きくするのが、良いこともあるでしょうし、クレッシェンドのピークが6拍目にきた時の方がしっくりくるときもあるかもしれません。

これらを考えることが曲練習での表現としたら基礎練習では、8拍かけて均一にクレッシェンドすることをトレーニングします。8拍かけてクレッシェンドするということは、9拍目の頭(直前)までが範囲になります。2拍ごとに音量の目安を決めておき、一定のスピードで均一に音量を上げていきます。

ロングトーンクレッシェンド

グラフにすると曲練習は曲線的なグラフに基礎練習は、直線的なグラフになります。やってみるとわかると思いますが均一に音量を上げていくというのは、とてもコントロールが難しい。でも、こういうトレーニングをしているからこそ曲練習のときに様々な表現に対応できるのです。

基礎練習ですべてのパターンのクレッシェンドを練習しておくという発想ではキリがありません。それにどういうパターンのクレッシェンドが相応しいかは、それは曲練習のときに考えることで、そのときにアイディアが湧いてくるものです。決して、決まったパターンが存在しているわけではありません。そのときに必要になるのがコントロールする技術というわけです。これが、音色でタンギングでもヴィブラートでも同じことが言えます。「クレッシェンドをする8拍のロングトーン」というたったこれだけでも、基礎練習と曲練習では違う発想なのです。

  • 「それでも基礎ができなきゃ応用もできないでしょ?」

というお言葉は、もちろん純度100%でそのとおりなのですがだからといって、表現することが時期尚早ではありません。僕からの提案はいま持っている基礎力でしっかりと表現に応用してはいかがでしょうか?ということです。

03基礎練習と曲練習は循環するもの

循環

基礎練習でコントロールをする能力を磨くからこそ表現に生かせる、曲練習で表現を考えるからこそ、基礎が必要なことを実感する。基礎練習というのは、上達したからといって不要になるものではありません。

曲の表現を考えることで自分に足りていない基礎能力が明るみになり、それらを基礎練習で継続して練習することで少しずつ表現の幅が広がっていくのだと思います。

螺旋階段を登るよう基礎練習と曲練習を行ったり来たりと循環することでだんだんと上達していくのだと思います。ぜひ、参考にして頂ければと思います。